【from Editor】究極の報道写真目指して

Christian Louboutin このニュースのトピックス:from Editor

 先日、高校生の長男を誘い、東京都写真美術館(東京都目黒区)で「世界報道写真展2010」を見た。オランダ・アムステルダムにある世界報道写真財団が毎年実施しており、今回は日本を含む128カ国、5847人の報道写真家が応募した。展示されていたのは、彼らが昨年1年間に撮影した10万点余りから選ばれた入賞作品約170点。平日の昼下がりだったが、会場は若い人でにぎわい、デジタル一眼レフを肩から下げた“カメラ女子”や、外国人の姿も目立った。

 世界中から集まった写真は、日本の新聞で掲載できない強烈なものが少なくない。襲撃されて頭から出血し顔面を真っ赤に染める黒人男性、爆撃された自宅から助けられたものの息絶えた子供、麻薬組織の抗争で頭を撃たれ布をかけられた遺体…。悲惨な写真からは、カメラマンが命懸けで取材していることも伝わってきた。

 一方で、カワセミが魚を捕らえる決定的瞬間を水中から撮ったネーチャーフォトもあった。大伸ばしされた力作は、どれも見る者に何かを訴えかける。来場者は一様に無言で写真と向き合っていた。最初は、あまり気乗りしていなかった息子も例外ではなく、食い入るように世界の現実を見つめていた。外国人も同じだった。改めて感じたのは「言葉を超えた写真の説得力」。そこには、細かい説明がなくても、力強くメッセージを発信する世界があった。

 帰り際、長男と印象に残った写真について話し合うと、意外にも意見が一致した。「一般ニュースの部」1位の作品で、撮影地はパレスチナ自治区のガザ地区。柔らかな光が差し込む静かな部屋の写真だ。よく見ると光は天井に開いた大きな穴から入っている。リビングルームが戦車砲で撃ち抜かれ一家の主が命を落とした、との説明があった。なぜ、砲撃された部屋が整理された状態で撮影できたのかは不明だ。が、家族の笑い声が聞こえてきそうな部屋の上に穴が開き、床もへこんだ風景は、日々の暮らしが一瞬で失われた現実を確実に伝えていた。死傷者を直接撮った写真よりも心に突き刺さった。

 こんな「想像力をかきたててメッセージを発する写真」が、究極の報道写真なのかもしれない。デジタルカメラが普及し今は空前の写真ブーム。報道写真に興味を持つ若い人も増え、読者の目は厳しく感性も豊かになっている。「人の心に届く写真」。いつも心がけたい。( Christian Louboutin